漢詩のルールといえば、やはり「韻」ですよね。
句末を同じ音でそろえることを、漢詩世界では「押韻」(おういん)というそうです。
(すべての句末ではなく、決まった句の最後だけ)
教科書で習った杜甫の「絶句」で見てみると…
「絶句」杜甫
江碧鳥愈白 江は碧にして鳥は愈よ白く
山青花欲然 山は青くして花は燃えんと欲す
今春看又過 今春看すみす又過ぐ
何日是帰年 何れの日か 是れ帰年ならん
形式は5文字×4句の五言絶句。
この五言絶句では、2、4句では韻を踏んでいるとのことなのですが、
音読みると、然(ぜん)、年(ねん)。
同じ音ではないですが、なんとなく最後に「ん」で音が整っている感じ。
これは現代中国語でも、然:rán、年:niánとなんとなく後ろの音はそろっているけれど、まったく同じ発音とも言えないのです。
実は、このいわゆる漢詩で韻を踏むのは、
宋代、それも南宋の劉淵が分類した「平水韻」が基準となっているのだそう。
劉淵はすべての漢字を百六種類の韻に分類。
そして百六種類の韻を、その発音から4つに分類しました。
4つの分類とは…
四声(現代中国語の「四声」とは異なる概念なので、混乱しやすく要注意)
〇平声(ひょうしょう) ・・・平らかな発音(三十種類)
●上声(じょうしょう) ・・・尻上がりな発音(二十九種類)
●去声(きょしょう) ・・・尻下がりな発音(三十種類)
●入声(にっしょう) ・・・語尾がつまる発音(十七種類)
全ての漢字はこの4つのどこかに分類されています。
それぞれの漢字がどのグループに属しているかは、漢和辞典を引くとのような圏点と呼ばれる記号(四角の中に○がどこの位置にあるか)で確認することができます。
そしてさらに大きくは、
平声〇と、それ以外の仄声(上声、去声、入声)●に分けられます。
漢詩作りではこの白○と黒●のグループ分けが、実はとても大事なのです。
そして韻を踏む時には、この第一グループの「平声」の漢字で踏むのが通例。
詩韻韻目表 (百六の韻)
四声 |
一〇六韻 |
|||||||||||||||
平声 |
上平 |
1東 |
2冬 |
3江 |
4支 |
5微 |
6魚 |
7虞 |
8斉 |
9佳 |
10灰 |
11真 |
12文 |
13元 |
14寒 |
15刪 |
下平 |
1先 |
2蕭 |
3肴 |
4豪 |
5歌 |
6麻 |
7陽 |
8庚 |
9青 |
10蒸 |
11尤 |
12侵 |
13覃 |
14塩 |
15咸 |
|
上声 |
1董 |
2腫 |
3講 |
4紙 |
5尾 |
6語 |
7麌 |
8薺 |
9蟹 |
10賄 |
11軫 |
12吻 |
13阮 |
14旱 |
15潸 |
|
16銑 |
17篠 |
18巧 |
19皓 |
20哿 |
21馬 |
22養 |
23梗 |
24迥 |
25有 |
26寝 |
27感 |
28琰 |
29豏 |
|||
去声 |
1送 |
2宋 |
3絳 |
4寘 |
5未 |
6御 |
7遇 |
8霽 |
9泰 |
10卦 |
11隊 |
12震 |
13問 |
14願 |
15翰 |
|
16諌 |
17霰 |
18嘯 |
19効 |
20号 |
21箇 |
22禡 |
23漾 |
24敬 |
25径 |
26宥 |
27沁 |
28勘 |
29艶 |
30陥 |
||
入声 |
1屋 |
2沃 |
3覚 |
4質 |
5物 |
6月 |
7曷 |
8黠 |
9屑 |
10薬 |
11陌 |
12錫 |
13職 |
14緝 |
15合 |
|
16葉 |
17洽 |
韻を踏める平声は、上下合わせ、全部で30グループ。
そして韻を踏む時には、30グループの中の同じグループの漢字のみで韻を踏むのだそう。
もう、ここまで聞くだけでくらくらしますね。
韻の話はもう少し続きます。