「平仄の四声」と「現代中国語・ピンインの四声」
漢詩の入門で、漢字には四声があり、それが平と仄に分かれると聞くと、現代中国語学習者はまず間違いなく、四声ってあのピンインの最初で習う「māmámǎmà」のアレでしょ、と思うに違うない。実際、私もそう思いました。
ところが、その次の段階で、「この平仄の四声は、現代中国語の四声とは違うんですよ」と言われ、第一の混乱が来る。
落ち着いて、まずは平仄の四声がどういうものか、整理してみる。
<平仄の四声>
漢詩は「唐代」の詩を基準としているが、
発音は宋代、それも南宋の劉淵(りゅうえん)の分類「平水韻」が基準となっている。
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全ての漢字を百六種類の韻に分類。百六種類の韻を、その発音から四つのグループに分類。
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四声 (しつこいが、現代中国語の「四声」とは異なる概念です)
(1)平声(ひょうしょう) ○ ・・・平らかな発音(三十種類)
(2)上声(じょうしょう) ● ・・・尻上がりな発音(二十九種類)
(3)去声(きょしょう) ● ・・・尻下がりな発音(三十種類)
(4)入声(にっしょう) ● ・・・語尾がつまる発音(十七種類)
※(2)~(4)が仄(そく)声●
平仄の話は↓に少し詳しく
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ここまで見ても、なんとなくピンインの四声と、似ているような気がしなくもない。
ちなみに、現代中国語・ピンインの四声も、同じく音の上がり下がりの分類です。
第一声 第二声 第三声 第四声
[ ā ]高くて平ら [ á ]上がり調子 [ă ]低くおさえる [à ]下がり調子
やはりここまで見ても、やっぱり似てますよね。
日本語でも、昔の発音と、現代語ではずいぶん変わってきていると言われます。
蝶々(ちょうちょう)は、平安時代にはテフテフと発音されていたとか。
同じく中国語でも、宋代の発音は、千年以上の時を経て、音の変遷があったというのは納得。
平仄の四声から、現代中国語が全く別物になったのではなく、音を引き継ぎながら変遷してきたととらえる方が自然な気がします。
先代方々のお知恵をお借りすると、大まかには下記のような変化のようです。
平仄四声 →→ 現代中国語の四声
(1)平声 ⇒ 第一声 第二声
(2)上声 ⇒ 第三声
(3)去声 ⇒ 第四声
(4)入声…… 時代の変遷で、標準語(北方系)からは消えた発音。
入声だった音は、第一声から第四声までのグループに散らばった。
という、基本的な流れがあるよう。
漢詩作りはで大切な「平〇仄●」を知るためには、
現代中国語のピンインで第一声、第二声は「平」〇 、第三声、第四声は「仄」●
という大まかなあたりはつけられそうだ。
ここでやっかいになるのが、現代中国語で発音が四つのグループに振り分けられた「入声」。
ただこれを日本語の発音から、入声の漢字かどうか判断する方法があるそう。
(これを見つけた研究者もすごいですね)
<入声の漢字の見分け方>
日本の歴史的かなづかいで二字以上のカナで表わされ、末尾に「フ・ツ・ク・チ・キ」のいずれかの音がくる漢字はすべて入声である。(平仄の仄●グループ)
難しそうだけど、実例で見るとわかりやすいかも。
例えば、数字の「一」は、イチで入声だとわかる。ちなみにピンイン[yī]で第一声になったもの。
数字の「六」もロクで入声。こちらは[liù]で第四声になっている。
入声だけあたりがつけば、あとは何となく現代中国語から平仄の勘が働くかなと思うのだが、入声の漢字がいくつあるのかと調べてみれば、1763文字もあるそうで。
音の変遷にも例外はあるし、だいたいピンインの四声を正確に全部覚えているわけでもないので、やはり平仄の勘が働くまでには、長い修行の道が必要そうですね。
ところで漢詩を現代中国語で朗読することは、平仄も変わっているし、あまり意味がないというコメントを見かけます。
ですが、現代ピンインが、基本は平仄時代の音の感覚をおおむね引き継いでいることを考えると、現代中国語で漢詩を読み上げることも、漢詩従来の音のリズムを味わう上でそこまで離れた行為ではないと感じます。
もともと平仄は、音が平らか平らでないかでグループに分け、その組み合わせで音を楽しむためのルールでした。
実際に現代中国人が平仄に留意して詠むときに、平声は長く、仄声は短く詠む(ように聞こえる)と言っている人がいます。長短を二音ごとに並ぶ美しさを味わっているとも。
我々日本人も万葉集や百人一首を、当時の日本語から発音が変わっている部分があっても、普通は現代日本語で詠んでいるので、それに近い感覚なのではないでしょうか。