漢詩作りのための雑記

漢詩は読むのも作るのも深い沼

高適主役のアニメ映画『長安三万里』が中国で大ヒット中!李白や杜甫など唐代の詩人が大集合

中国でこの夏休み期間に公開されているアニメ映画『長安三万里』が大ヒット中です。

168分という3時間近くに及ぶ大作ですが、見どころ満載の作品。

(映画館にあった『長安三万里』の立て看板)

 

主人公は、唐代の詩人「高適」(~765年2月17日)

名前は聞いたことがあっても、唐代の詩人としてはマイナーなイメージですよね。

映画ラストの字幕で紹介されていたように、実は唐代の詩人では官吏として一番の高い地位まで上り詰めた人物(渤海県侯に封じられています)詩を志したのは50歳からと言われ、詩人としては大器晩成型。

(↑若いころの高適。猫眼サイトより)

 

映画は、安禄山が起こした「安史の乱」(755年~763年)後半の混乱期から始まります。

ファーストシーンの舞台は、四川の雲山城。この城を守るのは節度使の高適

吐蕃に攻めいられ、高適はやむなく城を明け渡し後退するものの、最後は一世一代の大芝居を打ち、奇策で城を取り戻すまでの物語。

映画の見どころはラストの戦さでのどんでん返しもさることながら、そこに至るまでの高適と李白をはじめとする当時の詩人たちの交流物語。

(↑映画中の李白(左)と高適(右)。李白:701年5月19日~762年11月30日

 高適の目線で友人・李白の人生が語られ、裏の主役は李白ですね)

 

後退している高適陣営に、節度使を監視する持節監軍の程公公がやってきて、「李白」とはどういう関係だったかを問いただすことをきっかけに、高適と李白の物語の回想が始まります。

青春時代の出会いから、お互いの立身出世、そして逆賊の永王についた李白を高適が捕らえるまで。

そこに、一回り若い杜甫や、クールですかした王維、李白を思いやる孟浩然、酔っぱらいの張旭、年よりくさい賀知章など名だたる詩人たちが、それぞれの名詩をひっさげて登場します。

(↑杜甫の初登場シーンは、かわいいやんちゃ坊主。その後、若者に成長。

 杜甫:712年2月12日~770年

 

(↑才気あふれ、すかした感じの王維・701年~761年)

 

(↑いつも酔っぱらって奇人ぶりを発揮する張旭・675年~約750年)

 

(↑年配者の賀知章・659年—744年)

 

孟浩然は、すれ違い登場で顔のアップは一度もなし。でも船の上からのメッセージは印象的なシーンです。

 

夏休み期間の上映で、映画館に見に行ったら小学生くらいの子供を連れた親子連れでいっぱい。

そして、子供たちからはこの詩知ってる!なんて声も聞こえてきたり。

この映画の中で登場した詩(一部のものも含めて)は、44首とか。

私も李白の「静思夜」や、孟浩然の「春暁」が出てきたときは、まってました!という感じでしたが、知らない詩も多く。

 

それにしても唐代は、詩人たちの苦労も多いながらも華やかな時代だったなあと。

映画の中に登場する、「黄鶴楼」に詩人たちが書いた詩が掲げられているシーンは美しく。

その後、「黄鶴楼」が燃えてしまう場面もありますが、映画の最後は高適の裏の活躍などにより、長安の平和は守られます。

 

 

そして、

「只要詩在 長安就在」(詩さえあれば、長安は在り続ける)

と締められ、エンドロールには長安をうたった数々の唐代の名詩が流れ、なかなか胸熱。

 

3Dアニメとしての技術はすばらしく(髪の毛や指先など、まるで本物のよう)、ストーリーも最後まで飽きることなく、さらにクライマックスの盛り上がりもあり、なかなかの秀作だと思います。

歴史的人物に、その人の抱える背景的な悩みも描いていて、単なる子供向けアニメ映画ではない仕上がり。

 

もちろん教育的なお勉強要素もあり。

映画興行収入的にも大ヒット中です。

 

7月8日の公開から7月30日までに映画興行収入は15億元(約290億円)超え

2023年に公開された中国のアニメ映画の興行収入でトップ。

歴代の中国のアニメ映画の興行収入でも第4位にまで上昇中です。

(歴代のTOP3は、『哪吒之魔童降世』、『姜子牙』、『瘋狂動物城』)

 

中国アニメ映画『長安三万里』

168分 追光動画制作

監督:謝君偉、邹靖

声優:楊天翔(高適役)、凌振赫(李白役)、吴俊全(老年の高適役)、宣暁鳴(老年の高適役)

2023年7月8日に中国で公開

(写真は「猫眼サイト」の映画紹介より)